はじめに(プロジェクトの発端)
昔話「桃太郎」に登場する、川を流れる桃。 そのシーンを、AI生成動画ツール「Sora」を使って作ってみよう――そんな軽い気持ちで始めたプロジェクトでした。ところが、やってみると想像以上に手ごわかった。
今回は、「桃型宇宙船が川を流れる」という発想からスタートし、最終的に「川のほとりに不時着した桃型宇宙船」のシーンを動画として完成させるまでの過程を紹介します。
描きたかった世界:桃が宇宙から流れてくる
このプロジェクトの出発点は、「桃太郎の桃は実は宇宙からやってきた脱出ポッドだった」というアイデアでした。
この桃型宇宙船が、地球の上空から落下して川に着水し、そのまま川をゆったりと流れていく――そんなSF的かつ寓話的なシーンを描きたいと考えていました。
そのために必要だったのは、以下の3つの要素を兼ね備えたデザインです:
- 🍑 桃太郎の昔話に登場するような「象徴的な桃」
- 🚀 宇宙から来たことを想像させる「未来的なディテール」
- 🌊 川に浮かび、自然に流れていく「物理的な説得力」
この構想の実現が、今回の試行錯誤のすべての起点となりました。
桃型宇宙船の静止画ができるまで
イメージ通りの桃を作るまでが大変だった
プロンプト例:
A futuristic space pod designed in the exact shape of the peach emoji 🍑, flipped upside down. The pod has a soft pastel pink metallic surface with a vertical crease and small green leaves near the pointed top. Isolated on a plain background.
最初にぶつかったのは、「桃をどう描くか」という問題。 リアルな果物ではなく、桃太郎に登場するような、いわば"昔話の桃"をイメージしていたのですが、AIはなかなかその意図を汲んでくれませんでした。
突破口になったのが、絵文字🍑を使ったプロンプトです。 「upside-down peach emoji」のような形で明示すると、見事にシンボル的でかわいらしい形の桃が生成されるようになり、思わず「おおっ」と声が出ました。
桃をひっくり返すのに一苦労
Remixプロンプト例:
A peach-shaped escape pod flipped upside down, designed like the peach emoji 🍑. The pointed side with stylized green leaves is now on top. Soft pink metallic surface with gold seams, isolated on a neutral background.
桃太郎の桃は、割れ目が上に来る、上下逆転した形で川を流れてくる印象があります。 しかし、AIに"ひっくり返せ"と伝えても、意図がなかなか伝わらない。
ここでも「🍑 emoji, flipped upside down」のように、絵文字を用いた指示が非常に有効でした。視覚的にAIが学習しているものを参照することで、形状制御がうまくいくケースがあるのだと分かったのは大きな発見です。
窓付きの桃型宇宙船が完成
Remixプロンプト例:
A peach-shaped space pod with a circular glass window on the side, flipped upside down like the peach emoji 🍑. The pod has a smooth pastel pink metallic surface, stylized green leaves near the top, and extended landing legs. Isolated on a plain background.
最終的には、背景なし・足付き・ガラス窓付きの桃型宇宙船が完成。 この静止画は非常に完成度が高く、デザイン面ではここがプロジェクトのハイライトと言えるかもしれません。
動画化の壁:桃は浮くが、動かない
桃が水に浮かばない
Remixプロンプト例:
A peach-shaped space pod with landing legs, resting on rocks beside a river. The pod is soft pastel pink, upside down like the peach emoji 🍑, with stylized green leaves near the top. The AI should interpret the pod as floating on the river, not standing on land.
この美しい桃型宇宙船を川に浮かべたい。 でも、浮かばない。
実はこれ、足(ランディングギア)があると、AIが「地面に立っているもの」と解釈してしまうのが原因でした。 たとえ川に置いても、岩の上に立たせようとする。つまり、「浮く」ではなく「支える」方向に発想が引っ張られてしまうのです。
船のような葉っぱ構造で浮かせてみる
Remixプロンプト例:
A peach-shaped space pod with a boat-like base formed from green stylized leaves, floating gently on a calm forest river. The pod is flipped upside down like the peach emoji 🍑, with a vertical crease and soft pink metallic surface.
そこで考えたのが、葉っぱをボート状の安定した構造にして、浮かせるというアプローチ。 これは成功しました。 しかし今度は、川の流れに乗って桃が動くというアニメーションの生成ができませんでした。 桃型宇宙船は、浮かぶけど、動かない。
なぜ桃型宇宙船は動いてくれなかったのか?
今回の試行錯誤を通じて痛感したのは、AIは“動きを学習済みの形状”しか自然に動かせないということ。
人間、車、ボートなどは、動画素材が多く、AIがその動きを理解しています。 でも、オリジナルな物体――特に桃型宇宙船のような“非現実的なデザイン”は、動かし方がわからないのです。
さらに、川を流れるという"環境に沿った動き"まで加わると、難易度は跳ね上がります。
動かないなら、動かないなりの見せ方で
そこで方針転換。 「川を流れる桃型宇宙船」ではなく、「川のほとりに不時着した宇宙船」を描くことにしました。
桃型宇宙船は動かず、カメラだけが静かに川へとパンしていく。 これなら、動画化の破綻も少なく、雰囲気も出る。
結果的に、静止画の魅力を生かしたミニマルな動画表現という形で、一つの映像として成立させることができました。
ちなみにこの時点では、「不時着した宇宙船から煙や火花が出ている演出」を加えるアイディアも思いついていました。今回はそこまでは実装していませんが、次の展開としては十分にあり得ると思っています。
制作を通じて得た気づき
今回のプロジェクトで得られた学びは、以下のとおりです:
- ✅ 静止画のデザインはAIで非常に精度高く作れる
- ⚠️ オリジナルデザインは、AIが“動かし方”を知らないため、動画化で詰むことがある
- ✅ 動画化を前提としたデザインには、AIが理解できる形状や文脈を与える必要がある
- ✅ 「動かないデザイン」を扱うなら、カット切り替えやカメラワークで魅せる工夫が有効
桃が動かないなら、動かない世界を描けばいい。 AIと一緒に作品をつくるということは、制限の中で、柔軟に物語を組み立て直していく力が何より大事なんだと感じた体験でした。